シリーズ「病気」

シリーズ病気 No.8 狭心症

内科(副部長) 松井 秀夫

一昔前のロシアのエリツィン大統領や現在のアメリカのチェイニー副大統領が虚血性心疾患を患っていると報道されたこともあって、虚血性心疾患という病名やその治療法の一つであるカテーテル法の名前を目にされることが多くなってきたと思います。また、婦人向けや中高年向けの健康雑誌誌上でも、三大成人病としての心臓病、そのなかでも虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症)が取り上げられる機会が増えています。日本人の死亡原因の第2位が心臓疾患による死亡です。そこで今日は、虚血性心疾患とくに狭心症の診断とその治療法についてお話ししてみたいと思います。

一日に約10万回拍動する心臓には、その栄養と酸素を送るために、三本の直径3-4ミリ程度の冠動脈が通っています。この冠動脈がつまったり、狭く細くなると、心臓は首を絞められたと同じで、心臓に運ばれる血液量が足りなくなり、胸の強い痛みを生じます。運ばれる血液が不足することでおこる病気であることより、虚血性心疾患といわれ、冠動脈が狭くなっているのが狭心症、完全に詰まってしまったのが心筋梗塞です。血管を狭くしているのはアテロームというお粥か糊のような物質で、その主要な成分はコレステロールです。心筋梗塞は、このコレステロールの固まりが破裂し、これに血小板がからんで血栓となり、血管が完全に詰まってしまうことでおこります。長年使っている洗面所の配水管の壁にごみがついているところを想像していただければよいでしょう。

なんらかの胸の症状があるか、検診で心電図異常をいわれることが、狭心症を見つけるきっかけになります。症状としては、やはり、胸痛が多いですが、胸に限らず、のどが締めつけられる、焼けるようだとか、胸から左肩への痛みであるとか、みぞおち(心窩部)の痛みとなる場合もあります。痛みという表現だけでなく、絞めつけられるような、絞扼感や胸に何か重いものを乗せられた重圧感と言われる場合もあります。心筋梗塞の場合、すぐには治まらず、(少なくとも30 分以上続けば)緊急の治療が必要となりますが、狭心症ですと、何分か後には症状が治まるのですが、狭い血管は、残っていますので病気が治ったわけではありません。ただ、これらの症状が、心臓以外の病気でもおこりますから、検査が必要になってきます。また、症状がなくても、心電図(特に、運動負荷心電図)で異常が疑われるときは、狭心症が隠れていることがありますので、症状がある人同様に、検査を受けていただくこととなります。検査の主役は、心電図とカテーテル検査です。心電図では、安静時心電図(普通の検診などでの心電図と同じです)と、運動負荷心電図があります。狭心症は、心臓に負担をかけた状態で異常がでやすいので、安静時と運動負荷時の心電図を比べてみて、さらに検査を進めるかどうかをきめることとなります。カテーテル検査は、疑わしい人の冠動脈を直接写真に取りに行く検査で、「百聞は一見にしかず」でよくわかりますが、2-3日の入院が必要になります。3本ある冠動脈のうち、何本の冠動脈が悪いのか(初めての検査でも、2,3本悪いところが見つかることもあります)、狭い場所がどこにあるのか(根元に近い方が悪影響が大きい)、そして、一番のメリットは、これらを総合して、つぎにカテーテルによる治療が必要かも含め、治療をどのようにしていくのがもっともいいのか、治療方針を具体的に決める重要なデータになります。

治療が必要となった場合、薬で症状のコントロールはできる場合があるのですが、先ほどの水道管ではないですが、直接ごみをスパッと取り除く有効な薬はありません。(コレステロールを下げる薬はある程度このよう 次項へな効果を期待できますが、劇的には効きません)このごみを取り除くか、新しい通路を作るかして、もとどおり心臓に血液を送ってやることが治療の目的になります。このために当初行われていたのが、外科的なバイパス手術です。足や胸などの血管を使って、別のバイパス・ルートを作る手術です。その後1970年代後半より、医療機器の発達とともに、足の動脈から血管のなかにカテーテルという数mmの管を入れ心臓の冠動脈のなかで小さな風船をひろげて、狭い通路を広げるPTCAが発達しました。いまでは、風船だけでなく、・ステントという円筒型の金網で拡げる・ダイアモンドチップをコーティングした小さなドリルで狭く硬い部分を削るといった方法まであります。これらを含めて、最近は冠動脈に対する血管内手術をPCI(冠動脈形成術)と呼ばれることが多くなりました。

以上の治療法はバイパス手術より簡単に実施できるという利点があります。ごく初期には心臓外科の先生がされていましてが、最近は、循環器内科でこの血管内手術を行うようになっています。ただ排水管を詰まらせた経験のある方には判っていただけるかもしれませんが、この治療法の最大の弱点は、一度修理した管(血管)の三割から四割は3ヶ月から半年ぐらいするとまた狭くなってしまう(再狭窄)のです。術後、この時期に冠動脈造影をして再狭窄が起こっていないかどうか確かめる必要があり、再度血管内手術が必要となる場合があるのが弱点となっています。うまくいけば、薬も少なく、胸痛発作にわずらわされることもなくなる治療法です。

狭心症を中心に診断と治療をごく大まかに述べましたが、病気はならないように予防するのがかなり今でも効果的です。 冠動脈の場合、このごみに当たるのが先に出てきたコレステロールです。ではどうすればこのごみを減らせるか。それはやはり食生活を意識的に変化させるしかないようです。ポイントは、まず全体としての食事の量(カロリー)のとりすぎがないか、と食事内容のバランス(コレステロールのとりすぎ)です。実際アメリカでの心疾患死の減少には、高血圧、肥満、喫煙、尿酸の値の高さ、糖尿病といった危険因子(なりやすい原因)を減らす努力が大きくものをいっています。多くの食品にカロリー表示を徹底し、低脂肪食品・料理の普及につとめました。背の青い魚(鰯、鯖)の塩焼き、小芋の煮物、豆腐とわかめの味噌汁にご飯という伝統的日本食ということになるのでしょうか。アメリカで日本食が健康食としてもてはやされているのも、タバコが「麻薬」なみの扱いとなったことも、それだけアメリカ人にとって心疾患が重大問題で、その予防と再発防止に躍起となっている証拠ともいえるでしょう。翻って今の日本の食生活は欧風化され、食事量も増え、コレステロール値の高いものとなっています。バブルの頃のリッチなグルメブームは、沈静化したかもしれませんが、今一度、食生活をふくめライフスタイルを見直すきっかけとしていただけたらと思います。

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