シリーズ「病気」

シリーズ病気 No.10 尿失禁

泌尿器科(部長) 今西 正昭

尿失禁は「客観的に認められる尿の不随意な排出で、社会・衛生的に何らかのトラブルを引き起こす状態」と定義されています。日本では自覚症状があっても羞恥心等により来院せずに、一人で悩んでいるケースが多くみられます。また、程度の差はあるものの女性の30%以上が尿失禁で悩んでおり頻度の高い病態です。

1 分類

尿失禁には下記の種類があり、それによって失禁の症状および治療法も違ってきます。

  1. 腹圧性尿失禁
    咳やくしゃみをした時、笑ったとき、走ったときなど急に腹圧のかかる動作をした際に尿が漏れる状態です。出産や加齢により骨盤底筋群や尿道の支持組織が脆弱化し後部尿道膀胱角が大きくなることが原因で女性にとても多いタイプです。
  2. 切迫性尿失禁
    尿意を感じてからトイレまで間に合わないといったような強い尿意とともに膀胱の収縮が生じて尿失禁をきたすタイプです。原因は脳血管障害、脳腫瘍、変性性神経疾患などの中枢神経疾患や膀胱炎、膀胱腫瘍、膀胱結石などの強い膀胱刺激を起こす疾患によって起ってきます。
  3. 溢流性尿失禁
    前立腺肥大症、前立腺癌、神経因性膀胱などの排尿困難の為に膀胱に尿が溜まり、膀胱内圧が高くなり尿が漏れるタイプであり、膀胱内には多量の残尿を認めます。
  4. 反射性尿失禁
    尿意がなく、膀胱にある程度の尿が溜まると不随意に膀胱が収縮して尿が漏れるタイプです。中枢神経疾患や脊髄疾患が原因で起ってきます。
  5. 真性尿失禁
    尿道抵抗の消失により膀胱内に尿を溜めることが出来ないタイプです。先天異常、脊髄損傷、骨盤骨折、尿道括約筋損傷が原因で起ってきます。
  6. 機能性尿失禁
    痴呆、手足の不自由などにより二次的に起ってくるタイプです。
  7. 尿道外尿失禁
    先天異常による尿管異所開口や尿管膣瘻、膀胱膣瘻が原因で起ってくるタイプです。
2 診断
1.問診
  • 1日の尿回数や1回排尿量および排尿困難の有無
  • 尿失禁がおこるときの状態
  • 尿意の有無
  • 1日のパッドや下着等の交換回数

上記のような自覚症状につき詳しく聞くことにより尿失禁の分類をすることが出来ます。

2.エックス線検査
  • 排泄性腎盂造影(正面撮影)
    腎、尿管、膀胱の先天異常や形態異常の有無を検査します。また、臥位と立位、安静時と努責時を比較して膀胱下垂の有無を調べます。
  • チェーン膀胱造影(側面撮影)
    外尿道口より膀胱内へチェーンを入れて側面から膀胱を撮影し、後部尿道膀胱角を調べます。腹圧性尿失禁ではこの角度が開大しています。また、安静時と努責時を比較して膀胱下垂の有無や後部尿道膀胱角の変化を調べます。
3.尿流動態機能検査
  • 尿流量測定
    排尿状態のパターンや残尿量をみることにより排尿障害の有無を調べます。
  • 膀胱内圧測定
    膀胱内の圧力を測定することにより、膀胱は尿を溜めることが出来るか、また、尿を押し出すことが出来るかを調べます。
4.パッドテスト

テストの実際

  • 0分
    パッドの重さを測定し着用する。500mlの水を飲みイスの上で安静にする。
  • 15分
    30分の歩行をする。階段の上り下りを1回する。
  • 45分
    "イスに座る-立ちあがる"を10回繰り返す。
    10回強く咳をする。
    1分間1ヶ所を走り回る。
    床上のものを腰をかがめて拾う動作を5回繰り返す。
    流水で1分間手を洗う。
  • 60分
    終了。パッドの重さを量り、尿失禁を測定する。
    2~5g:軽度、 5~10g:中等度、 10~50g:高度、 50g以上:極めて高度

概ね以上のような検査により尿失禁タイプ、程度、及びその原因を調べます。 

3 治療
1.薬物療法

尿失禁は膀胱の蓄尿障害と排出障害に大別でき、これに尿道の障害が加わっている病態であり、その病態により使用する薬剤も異なっています。

蓄尿障害

過活動膀胱 尿道機能不全 排尿筋弛緩剤、三環系抗うつ剤、交感神経刺激剤
  正常尿道 排尿筋弛緩剤
正常膀胱 尿道機能不全 交感神経刺激剤
正常尿道 原疾患に対する治療剤

排出障害

過活動膀胱 尿道閉塞症状 交感神経遮断剤、排尿筋弛緩剤
正常膀胱 尿道閉塞症状 交感神経遮断剤
低活動膀胱 尿道閉塞症状 交感神経遮断剤、副交感神経刺激剤
正常尿道 副交感神経刺激剤
2.手術療法

尿失禁に対する手術療法は主に女性に多い腹圧性尿失禁が対象となります。その他の尿失禁のタイプでは原疾患に対する手術療法が選択されます。腹圧性尿失禁に対する手術は最近の進歩により簡単かつ安全となっています。

  • 経尿道的コラーゲン注入療法
    内視鏡下に膀胱頚部の粘膜下へコラーゲンを注入し、尿道抵抗を増加させて失禁を改善させます。
  • 膀胱頚部吊り上げ術(スリング法)
    人工材料や筋膜などを使い尿道を持ち上げて、開大した後部尿道膀胱角を改善し失禁を防止します。
3.骨盤底筋体操

肛門と膣を締めたり緩めたりを繰り返し行う運動で、弱った骨盤底筋群を鍛えることが目的です。短期間では効果はなく、気長に継続させることが大切です。

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