シリーズ病気 No.13 ヘリコバクターピロリ
内科(医長) 矢野 博之
ヘリコバクターピロリって何?
最近、テレビ番組でもよく取り上げられ、話題となっているヘリコバクターピロリ(通称ピロリ菌)ですが、まだまだ初耳といわれる方も多いと思います。この菌は人の胃の中という特殊な環境で生息する細菌で、胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍の発症に深くかかわっていることが明らかになり、注目されているのです。ピロリ菌は約20年前にオーストラリアの病理医によって発見されたのですが、その当時は"胃の中に細菌なんているわけがない"と信じられていました。なぜなら胃の中には胃酸という強い酸があり、菌が生息できる環境ではないと考えられていたからです。ところがこの菌はウレアーゼと呼ばれる酵素を出し、胃液中に存在する尿素を分解しアンモニアを産生します。そのことにより胃酸を中和し自らを守り、生息しているのです。そしてこのアンモニアによって胃粘膜や十二指腸の粘膜を障害するといわれています。また写真のように鞭毛を持っていて胃の粘液の中を動き回るのです。
ピロリ菌感染の診断方法は?
現在のわが国におけるピロリ菌の感染率(ピロリ菌がいる人の割合)は30歳台までは約30%ですが40歳以上の方は約75%といわれています。感染経路は幼児期の経口感染といわれていますが、まだはっきりとしていません。感染しているかどうかを調べる方法は、次のような方法があります。胃カメラを受け、
- 胃粘膜を生検し、顕微鏡で菌がいるかどうか見る。
- 胃粘膜を生検し、培養して菌が生えるか見る。
- 胃粘膜を生検し、ウレアーゼという酵素があるか試薬と反応させる。
- 息の中に含まれるわずかなピロリ菌が出す物質を調べる。(呼気試験)
- 血液中の抗体を調べる等があります。
菌がいるかどうかだけなら、胃カメラを受けない呼気試験が楽ですが、この検査はむしろ次にお話しする除菌治療の効果判定に使われることが多い方法です。やはり胃カメラを受け、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、またもちろん胃癌などがないかを調べておくことが大事です。
どんな人が除菌治療を受ければいいの?
ピロリ菌がいるからといってすべての人が除菌治療を受けなければいけないかというとそうではありません。現在40歳以上の方の75%以上がピロリ菌に感染していますが、そのうち胃潰瘍、十二指腸潰瘍の患者さんはほんの数%に過ぎません。ほとんどの方は胃炎があるぐらいなのです。ですから現在、保険で認められている除菌治療適応は胃、十二指腸潰瘍の患者さんだけなのです。そして、除菌治療はこれらの病気の再発予防にきわめて有効であることがわかっていますので、胃、十二指腸潰瘍を繰り返している患者さんには特にお勧めをしています。しかし胃、十二指腸潰瘍はピロリ菌だけが原因ではありませんので、煙草の吸いすぎ、塩分、脂肪分、刺激物の取りすぎや、過度のストレス、痛み止めの飲みすぎなどにも注意が必要です。
除菌治療の方法
胃カメラを受け、胃、十二指腸潰瘍と診断され、ピロリ菌感染がある方には抗生剤と抗潰瘍剤による除菌治療を行っています。除菌治療の時期は抗潰瘍剤(H2 ブロッカーやプロトンポンプ阻害薬といっ 次項へた胃酸をおさえる薬)によりある程度治癒してからが良いようです。抗生剤はアモキシシリンとクラリスロマイシンという抗生剤を2種類7日間服用していただきます。やや量が多いので、まれに、軟便、下痢、味覚異常、口内炎などの副作用を認める方もおられますが、ほとんどが軽度で、中止しなくてはならないほどの副作用はまれです。菌がいなくなったかどうかは除菌治療後、約2から3ヶ月で前述の呼気試験による判定を主にしています。この方法での除菌率は約80%といわれています。
胃癌との関係
ピロリ菌と胃癌の関係は現在多く研究され、昨年発表された呉共済病院の上村先生の論文は話題を呼びました。8年間にわたって1500人あまりの患者さんを追跡した結果、ピロリ菌陽性の患者さんから36人の胃癌発生が見られたが、ピロリ菌陰性の患者さんからは1例も胃癌発生が見られなかったというものです。しかし、世界的にもまだまだ議論されており、今のところ、それだけが原因ではないであろうというのが一般的です。ですからピロリ菌感染があってもそれだけですべての方に胃癌が発生するというわけではないと思われます。
ヨーグルトは効果あるの?
最近患者さんによく質問を受けることのひとつに"ピロリ菌にきくというヨーグルトは本当に効果があるの?"があります。実験的にはピロリ菌を減らす効果が認められているようですが、それだけで完全に除菌ができるというわけではないようです。しかし、乳製品にはピロリ菌が胃粘膜に接着するのを防ぐ効果があるといわれており、特に発酵乳製品は消化管全体を通じてよい食品なのでおすすめではあります。
最後に
胃、十二指腸の病気と深い関係があるということがわかってきたピロリ菌ですが、今後もまだまだ研究が進むと思われます。もし胃、十二指腸潰瘍をくりかえしておられ、なかなか胃薬を中止できない患者さんがおられましたらぜひ一度ピロリ菌の除菌治療を相談されてはと思います。
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