シリーズ「病気」

シリーズ病気 No.15 小児の気管支喘息

小児科 副部長 宮里 裕典(みやざとひろふみ)

はじめに

小児喘息という言葉をよく耳にします。小児期(15歳未満)の気管支喘息のことを世間一般で小児喘息と呼んでいるようです。気管支喘息の定義は別記(参考)としますが、喘息を示す大切なことは・突然に出ては消え(発作性可逆性)・息のはきづらい(呼気性)・ゼーゼー(喘鳴)で、・何らかのアレルギー(アトピー)素因がある人に多い・慢性の気道炎症(気管支炎)であるの5点です。今回は小児の気管支喘息について、いくつかのポイントを述べていきます。

気管支喘息ってどんな症状?

おもな症状は咳と喘鳴です。発作の頻度と強さでタイプ別に分けられます。おおまかに示すと、間欠型(年数回、春秋に軽い咳と喘鳴)、軽症持続型(月1回、咳と喘鳴を繰り返す)、中等症持続型(週1回、ときに日常生活に支障をきたすほどの咳と喘鳴)、重症持続型(ほぼ毎日、生活制限を伴う喘鳴や呼吸困難)です。明らかな喘鳴はドクター以外でも分かります。明らかな喘鳴の無いケースでご家族の訴えとして多いものは、「夜になると咳き込む。時々ゼーゼーする。咳き込んで吐く。布団に入ると調子が悪い。2~3週間も痰の絡んだ咳をする。走り回ると咳が出る。寒い部屋に入ると急に咳き込む。お昼はいたって元気。夜だけ痰がらみの咳と微熱がある」などの症状です。上記の間欠型や軽症持続型が考えられます。こういった軽症例は受診して初めて気管支喘息と指摘されたりします。気管支喘息の症状は夜や明け方に多いのが特徴です。

発症年齢は?

小児期に初めて気管支喘息を指摘される年齢は2歳半が最も多く、それまでは「気管が弱い。いつもの気管支炎。アレルギーの咳」などと言われているケースがよくあります。確かに2歳までは気管支持筋が弱く、気管支筋の収縮による気道狭窄より、気道分泌物亢進の方が目立ちます。それゆえ、2歳までの表現としては「ゼーゼーとした痰がらみの咳」が主訴になります。2歳を越えた頃からゼーゼーヒューヒューという呼気性喘鳴が明らかになり、気管支喘息と確定診断されます。

どんな人に多い?

小児の気管支喘息の有症率は15%前後です。つまり6~7人に1人は気管支喘息を持っています。そのうち90~95%はアトピー型と言われるIgEの関与したアレルギータイプです。アレルギー性鼻炎、結膜炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーなどのアレルギー性疾患を合併しているケースが多く存在します。高IgE血症で、ダニ、ハウスダスト、スギ、カビ、動物などの吸入抗原に過敏性があれば要注意です。就学前でIgEが250 IU/ml以上なら気管支喘息の有症率がたいへん高くなります。疑わしき症状があれば採血検査を受けてみて下さい。診断の目安になります。統計的には男児に多く、家族歴で両親や親族に何らかのアレルギー性疾患があれば、子供が気管支喘息になる率も上がります。どちらか一方の親でも気管支喘息であるなら、いっそう明確に子供に発症します(一般の5倍)。子供の生活環境も気管支喘息の有症率に影響します。受動喫煙は危険因子のひとつです。農村部より都市部に住む人に増えています。小児の特徴として、離乳食開始期に多種の食物アレルギーがあり、それに対して無制限で経過(放置)した人ほど気管支喘息をおこしやすい傾向にあります。卵白だけなどの単種なら有意差はありません。アレルギーは現代病です。昔に比べてどんどん増えています。小児の気管支喘息は20年前に比べて1.4倍の発症率となっています。また従来減少してくるはずの小学生期での初発例が増えています。

どんなときにおこりやすい?

それぞれの患者さんのタイプにもよりますが、小児では風邪を引いたときが最も多く、「2~3週間風邪で…」と受診される患者さんの多くは、咳の出始めは風邪で、長引く理由が気管支喘息であることをよく経験します。また、気圧や湿気の問題で、雨降りの前後(特に雨の1~2日前の夜)に症状が出やすくなります。従って、梅雨時、台風シーズン、秋の長雨期は喘息の出やすい時期です。春秋の季節の変わり目に多くなります。咳の有無や程度をその日の行動やお天気とともに日誌に記されると個人の特徴がよく分かります。

診断は?

上記の特徴をふまえて、発作性可逆性呼気性喘鳴があれば診断は容易です。ただし細気管支炎や百日咳、心疾患などの他疾患を除外する必要があります。余談ですが、2~3歳までに喘息様気管支炎という病名が臨床の場でよく使われています。これは受診時にはっきりしない気管支喘息であることが多く、確定診断までの予備軍のように思われます。

治療は?

急性発作期の治療と長期管理のための治療があります。今現在の発作を抑える治療と、いかに発作がない期間を維持するかの治療です。いずれも、気管支喘息のおこる機序をブロックする薬(抗アレルギー薬、DSCG剤)、気管支拡張剤(テオフィリン徐放製剤、β2刺激薬)、気道の過敏性や炎症を取り除く薬(吸入ステロイド薬)を使います。それぞれの発作のタイプに応じて、ステップ別に、なおかつ患児の年齢を考慮して、内服、貼付、吸入の投与方法で治療を行います。最近は、吸入ステロイド薬を早期に使用する傾向にあります。小児期の気管支喘息の70~80%は思春期頃になるとその症状が無くなります。しかし、 20~30%は成人期に移行します。この20~30%をいかに減らすかという治療概念が重要視されてきています。長期的な視野で、将来に向けて早期に気管支喘息の芽を摘むにはどうしたらよいかということです。ちなみに、1歳未満の発症例はその後も発作を繰り返しやすく、感染免疫機構も不十分で肺炎を合併しやすいため、3歳頃まで定期的な外来受診が望ましいでしょう。

おわりに

お子さんが気管支喘息と指摘されたご両親は大変心配でしょう。ご家族には短期的かつ長期的な視野で気管支喘息を理解していただき、必要に応じて定期受診をしていただきます。しかし、患者さんの中には、「喘息」という言葉に抵抗感があったり、「薬に頼ってはいけない」と言って適切な治療を得る機会を逸してしまう方がおられます。また「ステロイドは副作用が強い」と思い込み、それが吸入なのか内服なのかの認識もなく、ただステロイドという言葉に拒否的で説明に耳を貸さない方もおられます。大切なことは気管支喘息と診断されたお子さんにとって何が必要であるのかということです。ご家族の都合も様々でしょうから、信頼のできるかかりつけの小児科医を積極的に作り、小児科医ともじょうずに付き合って、よく相談されることをお勧めします。斜に構えるのではなく、ご家族が正面を向いて気管支喘息を理解して下さい。未来ある子供の健やかなる成長を望みます。

(参考)日本小児アレルギー学会による2002年のガイドラインでは、「小児期気管支喘息は、発作性に笛性喘鳴を伴う呼吸困難を繰り返す疾病であり、発生した呼吸困難は自然ないし治療により軽快、治癒する。その病理像は、気道の粘膜、筋層にわたる可逆性の狭窄性病変と、持続性の炎症とそれに基づく組織病変からなるものと考えられている。臨床的には、類似症状を示す肺・心臓、血管系の疾患を除外する必要がある」と定義されています。

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