シリーズ病気 No.27 目立つ傷跡の治療
形成外科(医長) 田嶋 敏彦(たじま としひこ)
ケロイドと肥厚性瘢痕
形成外科の外来には「けがの跡がケロイドになりました」といわれる患者様がしばしばいらっしゃいます。しかし、その傷跡の多くはケロイドではありません。一般の人は、自分が思うほどきれいにならなかった傷跡を、すべて「ケロイド」という言葉で表現する傾向がありますし、一般の医師の多くも、赤く盛り上がった傷跡は、すべてケロイドだと思っているようです。このようにケロイドという言葉はかなりあいまいで、いろいろな状態の傷跡をさす言葉として使われています。しかし「本当の意味でのケロイド」はもっと厳密で、きわめて限られた疾患をさす言葉なのです。
ある程度以上の深さのけがややけどをしたり、手術を受けたりすると、数ヶ月から数年の間、赤く盛り上がった傷跡になります。これが「肥厚性瘢痕」といわれるもので、ケロイドと似た外観を呈しますが、本当のケロイドではありません。肥厚性瘢痕の場合、年月はかかるものの、そのうちに赤みは消退し、盛り上がりも改善してくることがほとんどです。赤みや盛り上がりを早くひかせるために、内服薬や外用薬、圧迫療法を行います。もちろん傷跡が消えてなくなるわけではないので、傷跡をできるだけ小さく、またきれいにするために、形成外科的な手術をします。
一方、本当の意味でのケロイドはまれな疾患ですが、治療はかなり困難です。本当のケロイドは、やけどやけがや手術の跡に生じることもありますし、にきびの跡や、時には何もなかったところからも突然出現してきます。けがなどの跡に生じてきた場合、始めの数ヶ月間は肥厚性瘢痕との区別が困難ですが、半年、1年経つうちに、その区別がはっきりしてきます。本当のケロイドは、自然に軽快していく傾向がないだけでなく、周りに徐々に拡大し、また時には、体のいろいろなところに多発します。手術治療だけで本当のケロイドを治すのは無理ですし、逆に、ほとんどの場合、手術後に悪化することになります。ですから、手術以外の治療を行うか、もし手術を行う場合には、手術以外の治療と組み合わせた総合的な治療をしなければなりません。治療の効果があまり上がらないようにみえることもありますが、ケロイドが増大する速度が抑えられるだけでも意味がありますので、あきらめずに治療を続けてください。放置して拡大してしまうと、ますます治療に難渋することになります。
ア.内服薬:抗アレルギー剤(リザベンR)
内服によって1~2ヶ月で痒みが改善し、2~3ヶ月で痛みが改善するといわれています。 瘢痕、ケロイドの大きさの変化は見られないが赤みが少なくなり、硬かった傷跡が軟らかくなるといわれている。副作用としては膀胱炎様症状や肝機能障害が起こりえます。
イ.ステロイドホルモン
塗り薬や貼り薬がありますが、比較的効果が高いのは局所注射です。しかしキズに直接注入するため痛いのと、中止すると再発傾向が強いので繰り返さなければならないのが欠点です。また、まれに薬が効きすぎて、皮膚が薄くへこんでしまうことがあります。
ウ.圧迫療法
非常に手軽ですが、意外に効果があります。ケロイド、瘢痕をスポンジで押さえ、上から絆創膏で圧迫します。また場所によってはサポーターも使います。しかし長期での使用(数ヶ月~半年)が必要となります。また、皮膚の弱い人は絆創膏にかぶれることもあるので注意が必要です。
エ.保湿治療
キズにシリコンゲルシートや水分を通さない絆創膏を貼ることで、表面を保湿する方法です。この方法も手軽ですが意外に効果があります。しかし長期での使用が必要なこと、また皮膚のかぶれの問題があることは、上述の圧迫療法と同じです。
オ.レーザー治療
赤あざ(拡張した毛細血管)に効果のあるレーザー光線を当てる方法です。ケロイドや肥厚性瘢痕に効果的であったという報告は多いのですが、まだ実験段階の治療法といわざるをえません。
カ.放射線療法
ケロイドのできはじめのときに効果があります。しかし、古くなったケロイドにはあまり効果がありません。後遺症として皮膚障害や色素沈着などがおこる場合があります。
キ.手術療法
ケロイド部分を切り取って周囲の皮膚を縫い寄せます。再発を防ぐため、特殊な方法で内側からこまかく縫合します。また再発を防ぐため、わざとケロイドをまわりに残しケロイド内部をくりぬく手術を行うこともあります。また引きつれがあって、肥厚性瘢痕となっている場合には、引きつれをとり、Z形成術、植皮術、皮弁形成術などの形成外科的な手術方法を行います。
以上ざっと挙げただけでもたくさんの治療法が行われています。ということは裏を返すと特効薬のような効果的な治療法はないということです。専門医と十分に相談しながら、各種治療法の長所と欠点とをよく理解して選択し、根気よく治療していくことが大切です。
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