シリーズ「病気」

シリーズ病気 No.32 徐脈性不整脈とペースメーカー治療について

内科(医長)刀禰 央朗(とね えいろう)

1日に約10万回。心臓は24時間休むことなく拍動し続ける大変な働者です。心臓は心筋という特殊な筋肉でできた袋のようなもので、こぶし大くらいの大きさをしています。その袋の中には心房(しんぼう)、心室(しんしつ)と呼ばれる部屋が左右それぞれ2つずつあり、心房と心室の間や心室と大きな血管の間には血液の逆流を防ぐ弁といわれる構造を持っています。

心房と心室はある種の電気的な刺激により興奮し、一定の間隔をおいて順番に規則正しく収縮と拡張を繰り返します。こうして心臓から血液が全身に効率良く送り出され、心臓の血液循環ポンプとしての働きが絶え間なく行われているのです。ところで、この心房や心室の電気的な興奮は、体の外から心電図という形で見ることができます。心臓が病気になったときには、心電図にも正常とは異なる変化が現れてきます。

健康診断や人間ドック、心臓病を疑う症状を呈して受診される方に、必ず行われるといっていい検査が心電図です。心電図だけでわかる心臓病の代表が不整脈、心臓のリズムが不規則になる病気です。不整脈には大きく分けて徐脈性不整脈(じょみゃくせいふせいみゃく)と頻脈性不整脈(ひんみゃくせいふせいみゃく)があり、前者は脈が少ない(脈が遅い)タイプ、後者は脈が多い(脈が速い)タイプです。アテネオリンピック前の長嶋監督の脳梗塞(のうこうそく)は、頻脈性不整脈の1つである心房細動(しんぼうさいどう)が原因と考えられましたが、心房細動のお話は次回のお楽しみとして、今回は徐脈性不整脈とペースメーカー治療についてお話を進めて行きたいと思います。

まず、心臓が一定のリズムを刻む仕組みについて簡単にふれておきましょう。 心臓は電気刺激により収縮を命令する指令センター「洞結節(どうけっせつ)」と洞結節からの電気刺激を伝える電線「刺激伝導系」と呼ばれる電気回路のような仕組みを持っています。洞結節で出された指令は心房へ、 そして少し遅れて心室へ順に伝わり、心筋が電気的に興奮して収縮、指令が通り過ぎた後は収縮から自然に弛緩(しかん)し拡張、この繰り返しで心臓は規則正しくリズムを刻み、血液を全身へ送り出しているのです。

徐脈性不整脈には、指令センター「洞結節」の故障により収縮命令が十分出なかったり、心房細動などの非常に速いリズムが突然止まった後に次の指令がなかなか出ずに一瞬心臓が止まった状態になるもの(これらを総称して洞不全症候群といいます)や電気刺激を伝える電線「刺激伝導系」が切れて命令が途中から伝わらないもの(房室ブロック) があります。どちらも心拍数(心臓が動く回数)が少なくなるために、脳や全身に必要な血液が十分に行きわたらなくなり、一時的に意識を失う・めまい・脱力感などの症状が現れます。

多くの場合、心拍数は1分間に30~40前後と少なくなります(正常では心拍数は1分間に少なくとも60前後) 。残念ながら徐脈性不整脈を劇的に改善する薬はありません。唯一の治療法といってもいいのが、心拍数を最低限の数だけ保障してくれるペースメーカー治療です。

具体的には局所麻酔下で行われる1種の手術(ペースメーカー植え込み術)で当院では内科で行っています。利き腕と違うほうの肩の骨(鎖骨)の下を消毒・局所麻酔(注射)し、横6センチ・縦4センチ程の皮下ポケットを皮下脂肪と胸の筋肉の隙間に作ります。鎖骨の下を走る太い静脈血管に心臓への電気刺激を伝える細長い電線(リード)を挿入し、X線で確認しながらリード先端を心臓の中の適切な位置へ挿入・心臓内面へ接触させ、特殊機器により接触状態・感度が良好かどうか確認します。

頑丈なチタン製ケースに密閉された電池一体型のペースメーカ-本体とリードを接続し、ペースメーカー本体を皮下ポケットにしまい、切開した皮膚を縫合して手術終了。手術時間はおよそ2時間です。日本では年間4万人以上の方がこの手術を受けられています。この治療が特別なものではなく、広く普及していることがこの数字からもよくおわかりいただけると思います。

現在のペースメーカーはきわめて精巧で、信頼性が非常に高い医療機器です。ペースメーカーが植え込まれれば、徐脈性不整脈の方も健康な方と同じ生活を送ることができます。

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