シリーズ「病気」

シリーズ病気 No.38 大腿骨頚部骨折のゾクゾクするようなお話し

整形外科(部長) 久貝 充生(くがい あつお)

最近のニュースによると、2004年の日本人女性の平均寿命は85.59歳で、20年連続の長寿世界一になりました。
また、男性の78.64歳も世界2位で、男女とも過去最高を更新したとのこと。 まことに素晴らしいことであります!?

ヒトはすべて、年をとると骨の密度(いわゆる骨に含まれるカルシウムの量)が徐々に低下します。男性も女性も、太った方も痩せた方も、みんな、年をとると骨の密度は低くなっていきます。
これは加齢変化であって、神さまがお決めになった事ですから、ある程度受け入れなければならなのですが・・・。

問題なのは骨の密度が限度をこえて低くなると、骨が折れやすくなることです。子供の頃、布団の上でふざけて「ドタバタ」なんて経験は誰しもあると思いますが、それで大腿が折れたという話しはあまり聞いたことがありません。ラッシャー木村の『必殺!足4の字固め』なんかを掛けられたら別ですが、そう簡単には折れません。

ところが、です・・・70~80歳くらいのご老人が、布団の上でちょっと尻餅をついて、大腿の骨の付け根が折れるという事はよくあります。これを大腿骨頚部骨折といいます。大腿骨頚部骨折は、70歳以降、男女ともに増加します。しかも70歳以上では女性は男性の2倍以上の発生率です。

ここからは真に迫った作り話

夜中に便所に行こうとして、布団の端にけつまずいて転けてしまったA子さん。起きようと思っても脚の付け根が痛くって這うこともできない。長年連れ添ったご主人は2年前に亡くなられて、今は独居老人の78歳

子供は息子と娘が一人ずつ。自慢の息子は一流大学出のエリート商社マン、48歳。だけど一家でオーストラリアに長期滞在中。孫はかわいいが嫁は一人っ子でちょっと冷たいと日頃から密かに思っている。
実の娘は45歳。車で15分のところに家族3人で住んでいる。一番たよりになるが、嫁ぎ先でもありちょっと気兼ね。しかたがないから、朝まで我慢しようと思ったけれど、痛みはどんどん強くなるし、便所にも行けない。夜明け前になって、必死の思いで枕元にあった携帯で娘に電話。

結局、娘の旦那が自家用車で救急病院までやっとの思いで連れてきてくれた。救急病院の医師はこう言った。「おばあちゃん、大腿骨が付け根で折れています。手術をしなければ寝たきりになっちゃいます。手術はそんなに難しいものではありませんが、もともと血圧も高いし、糖尿病も患っておられるようですので、合併症が心配です」

それから2週間後、手術も無事に終わり、心配した合併症も特におこらず、PTとか言う若いリハビリのお兄ちゃんに助けてもらって、何とか廊下を歩行器で歩けるようになったA子さん。「明日から階段や入浴の練習をしましょう」と言われた。そしてさらに2週間後、A子さんは何とか杖で廊下は歩けるようになった。階段も手すりがあれば何とか上り下りは出来るようになり、お風呂も見守ってもらえれば入れるようになった。「そろそろ退院ですね」と主治医に言われた。めでたしめでたし!とはいかないのです!?

A子さんのお家は、公団の団地の3階。階段は急で手すりはなし。エレベーターもなし。しかも彼女は独居老人。自慢の息子は帰ってきてくれる様子はなく、娘にメールで「もともと歩いていたのだから、ちゃんと生活できるまで、病院に面倒みてもらうのが筋と言うものだ。お前も近くにいるのだから時々見に行ってやれ。俺達も何とかしたいが、今は動きがとれん」とのたまう。

しかし、娘一家は夫婦共働き。子供は、中学生で受験勉強の真っ最中。勉強さえしていれば、あとは何もしなくていいと思っている一人っ子。娘の旦那も一人っ子。リストラされての再就職。生活は何とかやってるけれど、自分の親のこともあり、嫁の親のことでは内「何で俺らばっかり?」と不満。さあ、これからA子さんの運命やいかに!

どうですか?ぞくぞくするような、真に迫ったお話でしょう?
でも、このようなぞくぞくするようなお話は、毎月のようにあるのです。

くれぐれも、転ばぬ先の杖をお忘れなく。エッ?どうすれば良いかって? もっと真剣に、健康なうちに、近い将来のことをお考えになることが大事では? 折れてからでは大変ですよ。

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