シリーズ「病気」

シリーズ病気 No.52 糖尿病と糖尿病性腎症

内科(副部長) 大西 哲郎(おおにし てつろう)

糖尿病という病気の名前は、大変よく知られています。ただし糖尿病が「全身の病気」「万病のもと」であることはいくら強調してもしすぎることはないと思われます。

糖尿病患者は全国にその予備軍も含めると1500万人いると言われ、その数は年々増加しています。日本人の3大死因は、悪性新生物(癌)、心疾患、脳血管疾患であり、心疾患と脳血管疾患をあわせると約3割となり1位の悪性新生物に迫る割合となります。この心疾患、脳血管疾患に深く関わっているのが動脈硬化といわれる病態であり、この動脈硬化に大きく関与しているのが糖尿病、高血圧です。動脈硬化というのは、血管の壁が硬くなり血管が細くなり血液が十分流れにくくなることをさします。血流が途絶えると、そこから先へは酸素や栄養が行き渡らず、体の細胞が障害されます。血管は全身の体の臓器を流れていますから、この動脈硬化による病気が心臓におこれば狭心症や心筋梗塞、脳におこれば脳血管疾患となり、腎臓におこれば糖尿病腎症、眼におこれば糖尿病網膜症となります。この糖尿病性網膜症も日本の成人の失明原因の第一位という怖い病気ですが、今回は糖尿病の合併症のひとつである腎症についてお話させていただきます。

糖尿病腎症は、長期間(約10年以上)の高血糖により、腎臓の糸球体(血液をこして尿をつくるところ)という毛細血管の固まりに動脈硬化などの障害をおこして発症します。症状は初期には無症状であり、進むと蛋白尿の出現、からだのむくみ(浮腫)、さらに進み腎不全になれば、尿量低下、全身の浮腫、肺水腫(肺に水がたまる、ひどい呼吸困難)老廃物を排泄する腎臓の機能が低下し、尿毒症(食欲不振、貧血、嘔吐、意識障害など)、となりついに透析が必要となります。

糖尿病患者の約30から40%(約400万人から500万人)に腎症を併発しているといわれ、また糖尿病腎症が原因で透析導入する人は、現在年間約1万人で現在もその数が増えています。このように透析を導入する原疾患のなかで、日本でいま一番多いのが糖尿病腎症です。

糖尿病腎症の病期分類(無治療で放置すれば下記のように進行し透析に至ります。)

第1期  腎症前期 尿蛋白陰性 腎機能低下なし
第2期  早期腎症期 微量アルブミン尿の検出  腎機能低下なし
第3期A 顕性腎症前期 持続性蛋白尿(普通の検尿でも尿蛋白検出) 腎機能ほぼ正常
第3期B 顕性腎症後期 持続性蛋白尿 腎機能低下
第4期  腎不全期  持続性蛋白尿 腎機能著明に低下、血清クレアチニン上昇
第5期  透析療法期 腎機能廃絶

糖尿病腎症の治療は、高血糖としばしば合併する高血圧の治療が中心です。糖尿病腎症は、自覚症状がないまま経過するため、早期発見と早期治療が重要です。したがって早期発見のためには血液、尿検査(尿中の微量アルブミン尿:一般の尿検査ではわからない微量な蛋白尿)が重要です。

糖尿病の人は、腎症を予防するためにも、塩分や蛋白質の過剰な摂取を避けて、しばしば合併する高血圧も十分に治療し、腎臓を守るようにします。高血圧は腎臓に負担となるため特に腎症を発症した患者さんにはより厳格な高血圧の治療が必要です。腎症が進行すれば、塩分や蛋白質の制限を(とくに上記の腎症の3期以降)行います。というのは過剰な蛋白摂取も腎臓に負担となるからです。

ただし糖尿病の人でも、血糖や高血圧の十分な治療で腎症の発症は予防が可能です。また腎症を発症しても、血圧を上げる物質アンギオテンシンの働きを阻害し心臓や腎臓を守り血圧を下げる働きのあるアンギオテンシン変換酵素阻害薬やアンギオテンシン受容体拮抗薬を用い、これらの薬で血圧の降下が不十分なときは血管を拡張して血圧を下げる作用のあるカルシウム拮抗薬などを併用して血圧を十分に下げてやることが、腎症の進行を防ぐ効果のあることが明らかにされてきています。しかし腎症がかなり進んではやはり治療は難しくなってきますので、早期発見,早期治療が重要です。

そしてさらに糖尿病といわれた人は、網膜症の早期発見と治療のため内科のみならず眼科の定期的な受診と検尿(尿蛋白、尿中微量アルブミン)所見に関心をもつことを心がけていただければ幸いです。

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