シリーズ「病気」

シリーズ病気 No.57 たかが「肩凝り」、されど「肩凝り」

整形外科(副部長) 建道 寿教( こんどう としのり)

肩凝り(かたこり)」と「五十肩」について時々質問を受けます。これらは全く別物で違った病状を表しています。「肩凝り」は、日本語の表記が「肩が凝っている」という状態ですから「肩関節」(腕の付け根の関節)が悪そうなイメージですが、実際には頚部の筋肉(僧帽筋や肩甲挙筋など)の異常な筋緊張状態です。「五十肩」は肩関節に痛みがあり、可動域(動かす範囲)が徐々に悪くなっていく関節疾患です。両者はどちらも「肩」という言葉がつくため肩由来という病態のようですが全く違っています。

日本人は肩凝りで困っている人が大変多くおられます。周囲に「肩が凝って、凝って!」という方はおられませんか。厚生労働省の調査によると、肩凝りは15~64歳までの年齢層の女性が訴える症状の第1位であり、35~64歳までの男性年齢層でも第2位を占める愁訴であると報告されています。一方、欧米人にはあまり肩凝りは多くないということです。日本人はストレスにてよく‘肩が凝り’ますが、欧米人では‘胃が痛く’なるようです。英語表現でのstomachache(ストマックエイク)(胃痛)が身体症状の表現が良く使われます。どちらにせよ、日本人では些細なイライラやストレスは「肩」へきます。日本人と肩との関係は、昔からの慣用表現によく現れています。思いつくだけでも、「肩で風をきる」、「肩肘を張る」、「肩をいからせる」、「肩で息をする」などは、いかにも肩が凝りそうな表現です。反対に、肩凝りが解消されそうな表現に「肩の荷がおりる」、「肩が軽くなる」などがあます。それ以外にも「肩を並べる」、「肩をたたかれる」、「肩をもつ」、「肩書き」など多様な言い回しがあり、人間の状態を表すものとなっています。つまり、古くから日本人にとって「肩」と言う言葉は生活の中でなじみの深い単語であり、切っても切り離せないものになっているようです。ちなみに英単語で「肩凝り」は、stiff neckで「かたい首」と表現されています。

肩凝りの原因は多種多様です。睡眠不足、ストレス、高血圧、眼精疲労、口腔疾患(口内炎、虫歯かみ合わせの悪い状態など)、内臓疾患(胆嚢炎や膵炎など)、頚椎症や頚椎椎間板ヘルニア(首の骨の軟骨病変やヘルニアによる神経の障害)などの頚椎疾患、腰痛症、肩関節疾患(五十肩、腱板断裂やゆるい肩である動揺性肩関節症)などあげてみればきりがありません。頚椎の長い人、短い人、なで肩な人、猫背な人、胸の大きな人、太った人、痩せた人など体型に起因することも影響大です。また、洋裁や編み物など凝り性な人や一日中パソコンに向かって業務をする人、読書好きの人などその人の生活様式や仕事での姿勢が肩凝りを助長させることも多いでしょう。メガネがあっていない、机や椅子の高さがあっていないなどの日常生活の中にも原因が潜んでいる事もあります。当たり前なことですが個々人によって「肩凝り」の原因は異なり、その原因を除いていかなければ症状の改善は得られません。ひどい肩凝りが持続すると、頭痛が発生するとか(頚性頭痛)や歯が浮いたように痛くなるなど体調の不調が連鎖的に起こってくる事があります。

中高齢者で肩凝りを訴えられることはよくあることですが、なかには小中学生や高校生などの若者に年齢不相応な肩凝りを患っているひとも時に遭遇します。若年者では女の子に多い傾向で、肩関節の‘ゆるみ’や肩甲骨の異常可動性のために起こる肩凝りがあります。また、胸郭出口症候群といって、なで肩に伴い鎖骨と肋骨の間で腕神経叢という神経の束が圧迫されることで首筋の凝りや腕(うで)のシビレ、肩甲帯全体の凝りが起こるものです。学童期の肩凝りは、勉学に支障をきたすばかりか、集中力の低下や疲労、根気力のなさなど円滑な学校生活を妨げる事もあるので、親子のコミュニケーションから見つけてあげてください。最近は、小児期においてさえ精神的ストレスやテレビゲームとの関連も報告されています。

頚椎疾患や肩関節疾患など除いては、あくまで「肩凝り」は病的なものではない事が多く、状態(病気)の原因ではなく結果です。いろいろな原因から的確に診断し、原因を解決する事が直すことの近道です。頚部への注射やリハビリテーション(電気治療やマッサージなど)を行う事は、原因から結果に至る悪循環のサイクルを改善するためであって、症状軽快時に少しでも原因を除去していく事が大切です。決して、注射1本で直るとはいえません。「肩凝り」が続く人は一度病院を受診され、それぞれの病態に応じて治療を行う必要があります。

肩凝りの予防を以下に述べます。同じ姿勢を続けず、1時間で例えるなら数分間は休憩して、軽いストレッチ体操を行うことです。肩の上げ下げや肩を回したり、首をゆっくりと左右に倒す運動などが効果的です。筋肉を動かすことでポンプ作用のため血液の流れが改善されます。シャワーだけではなく入浴するなど血行を促しましょう。また、ショルダーバッグをよく使われる方は、ショルダーベルトが落ちないように無意識のうちに肩に力が入っていることが多く、左右交互に持つよう心がけてください。リュックタイプのカバンは、締めすぎで頚部の筋緊張を助長します。気を付けてください。

たかが「肩凝り」、されど「肩凝り」です。

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