シリーズ「病気」

シリーズ病気 No.58 アナフラキシーショック

内科(副院長) 藤井 隆(ふじい たかし)

「アレルギー」と言う用語は日常よく使われていますが、その意味は「変わった反応」というギリシャ語から由来しています。その仕組みは生体にとって本来有利であるべき免疫の現象と同じであることが免疫学の研究で明らかにされてきました。そもそも免疫とは、抗原という免疫応答を起こす物質に対して生体が抗体(免疫グロブリン、免疫担当細胞)を産生し感染症などから自己を防御する抗原抗体反応が主な仕組みです。古代から一度伝染病にかかり回復した者は同じ伝染病には二度とはかからないことが知られていました。また、ジェンナーが牛痘をヒトに接種して痘瘡の感染を防ぐ予防接種を試みたことは歴史上有名な話です。一方で、イソギンチャクの毒素の微量を注射されたイヌは、その後に微量の毒素の再注射で抵抗性を示すどころか、激しい症状を急速に起こして死ぬ現象が発見されました。そして、この現象も動物の生体内で起こる抗原抗体反応であることが判明しました。このように抗原抗体反応に基づく免疫現象が有利に作用せずに、生体に不利な過敏反応現象をもたらすことを一般にアレルギーと言い、その内で全身性の反応の強いものがとくにアナフィラキシーとよばれます。また、血圧低下、呼吸困難、意識障害など生命の危険を生じる場合をアナフィラキシー・ショックとよんでいます。
 アレルギー現象はⅠ型からⅤ型までに分類されますが、アナフィラキシーは即時型であるⅠ型アレルギー反応に分類されます。即時型とは過敏反応がアレルゲン(アレルギー反応を生じる抗原)が生体に侵入後数分から数十分以内に発現します。Ⅰ型アレルギー反応には主としてIgEクラスの抗体が関与し、他に花粉症、気管支喘息などの病気もこのタイプに属します。

アナフィラキシーを引き起こす原因物質(アレルゲンとよびます)の中で特に頻度が多く注意が必要なものは①ハチ毒 ②食物 ③薬物です。過去に蜂に刺されたり、特定の食物や薬でじんましん、呼吸困難、めまい、気分不良、意識障害など体の異常を生じたことがある方は、これらのアレルゲンを回避することが第一です。ハチ刺され、ソバ(そば粉)の摂取、薬や注射などが原因で呼吸困難、ショックに陥り死亡に至る悲劇的な例が実際に見られています。ハチ毒アレルギーの予防としては蜂に刺されないこと、即ち蜂の巣に近寄らない、蜂を刺激しないことです。食物としては個人ごとに多種多様のものが原因となります。ソバ、ピーナッツは特に重症化しやすいですが、卵、牛乳、果物なども個人によって原因になります。当院の時間外救急で食物アレルギーによるアナフィラキシー症状で受診される方は決して稀ではありません。現在食品表示が義務付けられていますので、アレルギー体質の方は成分をこまめにチェックし、特に加工食品は外観では分からないこともありますので表示に注意して下さい。特定の食物についてIgE抗体を有しているかどうかの血液検査は自分のアレルギー体質を知る上である程度有用です。薬物としてはすべての薬剤が原因となる可能性がありますが、特に気をつけるもとのとしてペニシリンなどの抗生物質(抗菌薬)、アスピリンなどの解熱鎮痛剤、放射線検査に用いる造影剤などがあげられます。アナフィラキシー反応だけでなく薬疹など過去にアレルギーを起こしたことがある薬の名前は、正確に記録し、受診時には医師、薬剤師に伝えるようにして下さい。
 このように一部の方に特定の原因物質に対してアナフィラキシーというアレルギー反応が生じるわけですが、この急性反応は微量でも生じることがあり、少量だから大丈夫ということはありません。既に自分の体質が分かっているのに危険を冒してはいけません。アナフィラキシーの症状が発現した場合、治療は一刻を争います。直ちに医療機関を受診しで診察・治療を受けることが必要です。現在では緊急用の自己注射製剤もありますので、ハチ刺されや食物のアレルギーでアナフィラキシー症状を経験された方はアレルギー専門医にご相談されることをお勧めします。

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