シリーズ病気 No.68 心臓病における水分管理
循環器科 橋本 崇弘(はしもと たかひろ)
『心臓のためには、たくさんの水分を摂取したほうが良い』というのは不正確な知識です。正確には、『健康な人が病気を予防するのに、積極的に水分を摂取することは悪いことではない。しかし、心臓に病気を持っている人の場合は、脱水にならないよう注意する必要があり、水分の過剰摂取は心不全を誘発する危険性が高まる』が、正しい認識です。
ここで、人間の体内での水分の流れを説明しましょう。『水を口から飲む』→『腸で水分は体内に吸収される』→『体内に入った水分は血液の一部となる』→『血液(水分)は血管を通って腸から心臓に運ばれる』→『心臓から全身に向けて送り出された血液の四分の一は腎臓を通る』→『腎臓では、血液から尿を作るが、身体にとって必要でない余分な水分を尿として体外へ排出する』 例えば、健康な人が10リットルの水分を一度に経口摂取しても、心臓と腎臓の機能が正常なら10リットルの尿が作られ、身体の水分バランスは保たれます。
血管内に充分な水分があれば、血管はドロドロになりにくく、狭心症の発作は起こりにくくなる。ただ、水分を摂取しても、狭心症の進行を止めることはできません。生活習慣病によって冠状動脈(心臓を構成する筋肉に血液を供給している血管)の動脈硬化が進行し、冠状動脈が細く狭くなることで、心臓を構成する筋肉へ送られる血流が減少し、狭心症が発病するのです。脱水は、血液をドロドロにさせるので、血管が狭くなった部分で血液が詰り易く、狭心症の発作を誘発させます。でも、元々、生活習慣病の治療経過が良好で、血管が狭くなっていなければ、脱水になっても狭心症の発作は起こりません。つまり、狭心症の本態は、あくまで生活習慣病による動脈硬化であって、脱水は発作の誘因の一つにすぎません。
また、心筋梗塞や弁膜症の既往がある患者さんの場合はどうでしょう。これらの患者さんは多かれ少なかれ心臓のポンプ機能は低下しています。水分を過剰摂取すると、必然的に体内の血液量は増えます。全身の血液量が増えると、心臓が全身に送り出す血液量も当然増えるので、結果として心臓の仕事量が増えます。健全な心臓であれば、多少仕事が増えても、余力があるので対処できます。しかし、ポンプ機能の低下した心臓の場合、元々弱っているので、増えた仕事をこなすことができず、逆に心臓が一層バテて弱ってしまいます。最終的には、さばくことの出来なくなった血液(水分)が、全身に“むくみ(浮腫)”として溜まり、“うっ血性心不全”を発症します。肺の中は元々酸素で満たされた臓器なので、そこが、血液で水浸しになると、酸素を上手く体内へ取り込むことができなくなり、少し歩いただけで息苦しくなるのです。
心臓病の患者さんは、脱水にならない程度に水分を摂取し、一方で、心不全にならないよう水分を取り過ぎないように、日々心掛ける必要があるのです。この至摘水分摂取量は患者さん一人一人違うので主治医に相談してください。
▲ ページの先頭へ戻る
