シリーズ「病気」

シリーズ病気 No.72 肺塞栓

救急センター長兼副院長 大谷 正勝 (おおたに まさかつ)


肺塞栓症は聞きなれない病気ですが、最近、長距離の飛行後に発症するエコノミー症候群としてよくニュースや新聞などで報道されています。
長時間の同じ姿勢をとることにより下半身に血液のよどみが起こり下肢静脈内に血の塊(深部静脈血栓症:文末参照)が発生し、この血栓が血管の壁からはがれて血液の流れにのって心臓内に入り、最終的には肺の血管(肺動脈)に詰まってしまうのが、肺塞栓症です。
エコノミー症候群は長距離の飛行機旅行後に発生する肺塞栓症のことです。肺塞栓症の発生率は、欧米人で1~2/1000人で、発症後の30日死亡率は28%にも及びます。日本人でも入院死亡率は15%前後と言われており、注意しなければならない急性疾患のひとつです。

この病気は血液が固まり易い状態(血栓ができやすい)にある場合に起こしやすいと考えられます。
例えば、
  (1) 長時間の同じ姿勢をとった場合:最近、医療現場では、長時間の手術が問題になっています。
       エコノミー症候群と同様の機序で肺塞栓を起こす危険性があるからです。
  (2) 肥満:日本で肺血栓患者の34%はBMI(肥満指数)が25以上であったとの報告もあります。
  (3) 避妊薬服用中、妊娠,ホルモン補充療法施行中など。
  (4) 血液が固まりやすい遺伝的疾患。
以上の要件と共に,65歳以上、深部静脈血栓症があることなどが加われば発生頻度は増加し、予防が必要になります。

症状の特徴は、胸痛・呼吸困難などが突然起こるところにあります。そのため、心筋梗塞などとの鑑別が必要となります。
病状は軽い息苦しさを示す軽症から急速にショック状態に陥る重症まで認められますので、正確な早期診断が重要です。当院では肺塞栓が疑われる場合には,血液検査のD-dimer測定と必要に応じたマルチスライスCT撮影を行っています。これによって診断がほぼ完全に確定でき,迅速な治療を開始することができます。

肺塞栓症は突然、発症し重篤な経過をたどることがありますから、その予防も重要です。当院では、上述のごとく肺塞栓の危険性が高い患者さんには、抗凝固療法(血液をサラサラにする薬剤の服用)や運動療法を薦めています。また、一般手術時もガイドラインに沿った予防策を行っており、手術中、手術後の肺塞栓の発症予防に努めています。


** 深部静脈血栓症:下肢が腫れる病気です。下肢静脈・腸骨静脈系の太い静脈に血栓ができて、静脈の血液が心臓に戻りにくくなるために足が腫れるのです。ただし、ほとんどの場合、腫れるのは片足だけで、両足が腫れる場合は心臓病や腎臓病などが考えられます。


 

 

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