シリーズ病気 No.74 「立ち座りの時や歩き始めに膝が痛い!」
整形外科部長 建道 寿教 (こんどう としのり)
65歳の女性からの質問です。
最も頻度が高く、一番に考えられるのは「変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)」です。
| 膝関節のクッションである軟骨のチビリ(すり減り)や膝周囲の筋力低下により関節の変形や炎症が起こって痛みが生じる病気です。中高年の方に多く、いわゆる老化現象(医学的には軟骨変性)により必然的に起こってきますが、痛みなどの症状があるなら病的なものと捉えます。特に女性に多く、50歳以降に発症し65歳以上にて急増します。変形性膝関節症の患者さんは約1200万人(総人口の1/10)もいると言われており、要治療者は約700万人とのことです。 |
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座った姿勢から立ち上がるときや歩き始めなどの運動開始時に痛みを伴うことが多く、ひどくなるに従い階段の昇り降りや立っていることだけでも痛みが自覚されます。すこし太った方に多く、膝の内側(うちがわ)に痛み、病状の進行につれて膝が「くの字」のごとく曲がったO(オウ)脚になります。そもそも、日本人の女性はもともとO脚の方が多いです。
痛み以外に、膝の曲げ伸ばしが行いにくくなったり(リハビリ用語では可動域制限)、関節内に「水」が溜まったりします(関節水腫)。加齢による関節軟骨のすり減り以外に、以前に受傷された膝周囲の骨折や半月板・靭帯(じんたい)損傷などの「けが」も変形性膝関節症の原因になります。
痛みはじめなど発病初期にはすぐに痛みが軽減したり、高齢者の方では「年」のせいだとあきらめたりして病院に来られる事が少ないのが現状ではないでしょうか。一度、軟骨変性(軟骨のすり減り)が進行してしまえばほとんど元に戻ることはないと言われています。若いときのような膝に戻すことはできませんが、適切な治療を受けられ症状の進行を遅らせることでほぼ通常の日常生活を送ることも十分に可能です。したがって痛みをとり、膝が完全に曲がりきらない状態や伸びきらない状態を改善して、現時点での膝の機能を高めることを目標にして治療されます。
主にヒアルロン酸の関節注射や理学療法(リハビリ)で治療を開始します。症状の改善が得られない場合には手術的治療も考慮されますので整形外科外来を受診され相談してください。
ここでは理学療法と手術療法について少し説明します。
理学療法
膝関節周囲筋の筋萎縮防止と筋力増強を目指して行います。関節周囲の運動を行うことより患部を温めて筋肉の血流を良くし筋肉のこわばりを軽減させます。そうする事で関節の動きがスムーズにする効果が得られます。筋力をつけることで関節自体にかかる負担を軽減できます。膝周辺の組織への血行改善により、関節内の組織代謝が亢進されます。また、可動域の状態を改善することで関節機能を回復することになります。たとえ関節軟骨がすり減り変性を示していたとしても、ある程度の病状進行までであるなら関節運動により軟骨細胞の新陳代謝がよくなることになり、関節の繊維軟骨などの再生が期待されるため運動療法のメリットがあります。
手術療法
①関節鏡視下手術
関節に水が溜まったり、ひっかかり感など半月板損傷や軟骨損傷、関節内遊離体などが主な原因であるものが適応になります。変性した半月板断裂に対しても良い適応です。内視鏡を使用し、小さい傷でできます。病期が進行した例では適応になりにくいですが、短期入院で関節内の「お掃除」(廓清)が可能です。
②高位脛骨骨切り術
膝関節近傍にて脛骨の骨を切って、特に内側に部分的に集中していた荷重軸を分散させて変形を矯正する手術です。O脚をX脚気味にします。
③人工膝関節置換術
以前に比べて人工関節のデザイン、材質などの進歩や手術方法の改良で術後成績は向上・安定しています。病期が進行した例が適応になります。痛みはほぼ取れますが、曲がる角度が制限されるとよく言われています。しかし、リハビリ次第では写真のようによく曲がる患者さんも多数おられます。手術のタイミングとしてX線像のみだけでなく、患者さんの痛みの許容程度と生活の不自由さなどが考慮されます。人工関節の対応年数などの問題もあり比較的高齢者の人が適応になることが多いです。


よくある質問
「膝の水を抜くとクセになりますか。」
クセにはなりません。病状の進行があるため水がたまるので、痛みや腫れがひどい場合は関節液を抜いて治療を行います。
この「水」とは「関節液」です。関節内には正常な膝では1ccに満たない量で保たれ、内部の滑動性向上(関節のすべり)や関節軟骨の栄養に影響を与えています。軟骨に傷がついたり損傷・破壊されたりすると関節内部の滑膜に炎症がおこり関節液が多量に分泌され関節内に関節液が溜まります。すなわち、クセになるというより、関節内部の状態が悪いため「水」が溜まっているのです。
「正座はできるようになりますか。」
極端に曲げている正座の状態は、人間(膝関節)にとって必ずしも良い肢位ではありません。軟骨の損傷があれば痛みや軟骨の亀裂等はより助長されるでしょう。日本では正座文化が伝統でしたから正座にこだわりますが、イス生活を中心とした正座をしなくても良い生活環境は「膝」にとってはより優しい状態です。
「よく歩く方がいいですか。」
痛みを我慢してまでの無理な歩行は膝には過酷です。膝に負担をかけずに運動をしてください。プールなど膝にいいと言われていますが、浮力のため膝に体重が全部かからず、膝関節部の負担が軽減されます。
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