シリーズ病気 No.81 小児の気管支喘息の治療~当科の方針を含めて~
小児科 副部長 宮里裕典
~はじめに~
2003年、このシリーズに「小児の気管支喘息」について記載しました。そのころに比べ、気管支喘息の治療ガイドラインは、吸入ステロイド薬をさらに積極的に取り入れる方向に進んでいます。吸入ステロイド薬の効果は絶大で、喘息死を飛躍的に減少させました。しかし、いつまで続けるのか、どのレベルの治療で再発率はどの程度なのかなど、まだ不明な点もあります。今も、喘息患者は増加の一方です。今回は小児の気管支喘息の治療について、当科の方針を含めて述べます。~喘息は気道炎症~
気管支喘息の病態は気道炎症です。つまり気管支の炎症です。喘息を説明する際、気管支炎という言葉を使うドクターがいますが、気管支炎という言葉は母親たちに風邪などによる急性気管支炎をイメージさせるため、適切でないと考えられます。気道炎症というべきでしょう。喘息は慢性的な気道炎症を有する呼吸器疾患です。アレルギーが多く関与する疾患ですが、アレルギー疾患というより、慢性呼吸器疾患という概念が必要です。従って、その治療薬は抗アレルギー薬より抗炎症薬(気道炎症を抑える薬剤)が中心となります。~吸入ステロイド薬~
喘息の長期管理で、気道炎症を抑制する基本治療薬は吸入ステロイド薬(商品名:フルタイド、パルミコートなど)です。一般的に、ステロイド剤には吸入、外用(軟膏や点鼻)、内服、注射(点滴)薬があります。喘息で使用する治療薬は主に吸入薬です。1日1-2回吸入します。ターゲット臓器である肺(気管支)に直接噴霧します。そのため、ステロイドの使用量は少なく、全身吸収率も極めて低く、副作用はまずないレベルでの使用となります。患児の年齢によって吸入が出来る出来ないがあるため、吸入薬の剤形には、ドライパウダー剤、エアロゾル剤(補助具を使用)、液体(吸入器を使用)があります。いくら肺がターゲットといっても吸入時には口腔内に薬剤が付着します。これを長期にわたって放置すると口腔内にカビを発生させる恐れがあります。うがいで解消できるため、吸入後のうがいを心がけてもらいます。うがいの出来ない乳幼児は飲水で構いません。吸入ステロイド薬には即効性はありません。低用量の長期使用薬です。調子のいい状態を維持するために、調子のいい状態だからこそ使用します。ガイドラインでは最低3-6か月は使い、その後で減量を考えるとされています。しかし、機械的に最低期間で中止した症例には再燃例が多いと感じられます。各症例の経過によって使用期間は異なります。くれぐれも増量、減量、中止は担当の医師と相談してください。~その他の喘息治療薬~
内服薬としてのメインはロイコトリエン受容体拮抗薬(商品名:オノン、キプレスなど)です。気道炎症を抑える力があり、吸入ステロイド薬と並び喘息治療薬の二本柱です。追加の内服薬としては気管支拡張薬(商品名:テオドールなど)などがあります。また、吸入器を用いるものとしてはDSCG(グロモクリク酸ナトリウム)薬(商品名:インタール)+β2刺激薬(商品名:メプチンなど)、それと使用に便利な貼付型気管支拡張薬(商品名:ホクナリンなど)などもあります。~当科の方針~
当院小児科では日本小児アレルギー学会の「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン(2008年)」に基づいた治療を行っています。一部の軽症例はロイコトリエン受容体拮抗薬の内服だけで症状をコントローできますが、多くは軽快してもまったくの無症状にはなりません。夜間の咳や雨降りの前日に咳が増えるという症状が残ります。そのようなときは、患児の年齢と症状、それに家族歴を考慮して、積極的に吸入ステロイド薬を開始しています。吸入ステロイド剤を開始すれば症状は安定し、それだけでも喘息のコントロールは可能であろうと思われます。しかし、吸入ステロイド薬は気管支粘膜に届いてこそ効果的です。内服薬は血流があれば効果的で、吸入薬が届かないところ(末梢)にも効くという概念があります。当科では、その概念と吸入ステロイド薬の使用量を必要最少量にすることを目的とし、喘息と診断したほぼ全例にロイコトリエン受容体拮抗薬を処方しています。内服は1日3回の時代ではなくなりました。2回か1回です。急性期の対処だけで吸入ステロイド薬は不要だと判断した軽症例には、抗ロイコトリエン剤に加えてDSCG薬+β2刺激薬の吸入を行います。これらは即効性はあるものの気道炎症を抑える力に乏しく、症状が安定すれば早期に止めていきます。ただし、発作でなくとも咳症状があれば長期に使用します。この吸入は中等症以上の症例で、吸入ステロイド薬やロイコトリエン受容体拮抗薬の内服とともに長期に使用されることが多い薬剤です。吸入器は家族で個人購入してもらいます。機種や購入先の紹介はしますが、コストの介入はしません。金額は1-2万円です。高いと言われる家族も、定期使用なら安いもの、不意な発作での時間外受診を避けられるだけでも安いと言われる家族もおられます。ちなみに、25年前は鉄の塊りのように重く、金額は10万円以上でした。短期使用なら当科から無償で貸し出しています。最近、吸入ステロイド薬とβ2刺激薬の合剤(商品名:アドエア)の使用が小児に追加適応されました。吸入器を使う治療では1回に5-10分の時間を要します。それが朝、夜の1日2回の定期使用になると、母親の時間的負担から必要な薬の使用が不定期になってしまいがちです。負担を軽減できれば安定した定期使用が得られるため、当科ではこの合剤を積極的に使用して行く予定です。~おわりに~
喘息治療の目標ポイントは、日常生活に支障がなくなることです。学校に行くことができ、運動も自由で、風邪を引くのは仕方ないが、風邪が風邪で終わること、つまり喘息症状が出ないということです。もちろん肺機能も正常であることです。そのために薬剤を使用します。薬で症状の出ない状態を寛解といいます。寛解を長引かせた後に薬剤を段階的に中止します。治癒とは、薬剤を使用することなく無症状が5年以上維持できた状態を指します。当科では治癒を目指し、早期から積極的な治療を行っています。
