シリーズ「病気」

シリーズ病気 No.89 高血圧症

 循環器内科(部長)甲斐 達也 

  • 高血圧症とは

     高血圧症は本邦の成人において最も多い疾患で、加齢に伴いその有病率は高くなり患者数は約4000万人にのぼります。

    血圧はその値により(図1)のように分類され、収縮期血圧140mmHg以上もしくは拡張期血圧90mmHg以上で高血圧と診断されます。最近、家庭でも血圧を測る機会が増えていますが、家庭での血圧は収縮期では135mmHg以上、拡張期では85mmHg以上で高血圧と診断されます。高血圧症そのものは自覚症状に乏しいですが、放置すると(図2)に示すように脳卒中・心筋梗塞・心不全・腎不全などの様々な合併症を生じてくるため早期からの血圧コントロールが必要です。


    成人における血圧分類(図1)
    分 類 収縮期血圧 拡張期血圧
    至適血圧 <120 かつ <80
    正常血圧 <130 かつ <85
    正常高値血圧 130 ~ 139 または 85 ~ 89
    I度高血圧 140 ~ 159 または 90 ~ 99
    II度高血圧 160 ~ 179 または 100 ~ 109
    III度高血圧 ≧ 180 または ≧ 110
    収縮期高血圧 ≧ 140 かつ < 90
    高血圧症の合併症(図2)
    心 臓 左室肥大(心電図・心エコー)、狭心症・心筋梗塞、
    心不全、冠動脈再建
    脳出血・脳梗塞、無症候性脳血管障害
    一過性脳虚血発作
    腎 臓 蛋白尿(尿微量アルブミン排泄を含む) 糸球体濾過率の低下
    慢性腎臓病、 確立された腎疾患(糖尿病性腎症、腎不全など)
    血 管 動脈硬化性プラークあるいは
    頸動脈内膜-中膜肥厚 閉塞性動脈疾患、大血管疾患
    眼 底 高血圧性網膜症
  • 家庭での血圧測定

    家庭での血圧測定は、朝と晩の2回行うのが最も望ましいです。血圧計はカフを手首に巻くタイプのものよりも上腕(肘の上)に巻くタイプのものの方が正確な値が得られます。朝の血圧測定は、起床後1時間以内で排尿をすませた後で服薬と朝食の前に座位で1~2分の安静後に行います。晩の血圧測定は就床前に座位で1~2分の安静後に行います。また、自覚症状のある時や休日の昼間に測定した血圧値も治療上の参考となります。家庭での血圧測定は必ずしも毎日測定する必要はありませんが、できるだけ長期間続けることが必要でまた複数回測定したときは全ての測定値を記録することが重要です。家庭血圧を測定することにより、白衣現象の有無や薬の効果の判定も行えます。また診察室で測定した血圧よりも家庭で測定した血圧の方が脳心血管疾患のリスクの予測には有用です。

  • 高血圧症の種類

    高血圧症には、本態性高血圧症と二次性高血圧症の2つのタイプがあります。二次性高血圧症は(図3)に示すような疾患のために二次的に高血圧を生じたもので、高血圧症全体の約10~15%の頻度です。二次性高血圧の半数近くが腎臓の病気が原因でおこる腎性高血圧です。本態性高血圧は、特に高血圧を呈する原因疾患がなく遺伝的要因と生活習慣により起こってくる高血圧症です。通常は40歳前後から高血圧を呈してきます。

    主な二次性高血圧症 図3
    腎実質性高血圧症(糖尿病、慢性腎炎など)
    腎血管性高血圧症
    原発性アルドステロン症
    クッシング症候群
    褐色細胞腫
    睡眠時無呼吸症候群
    甲状腺疾患、副甲状腺機能亢進症
    大動脈縮窄症
    脳幹部血管圧迫
    薬剤誘発性高血圧
  • 高血圧症の治療:

    高血圧症は、基礎疾患や年齢により治療の目標とする血圧値(降圧目標値)が異なります(図4)。いずれの場合も降圧目標値以下に血圧をコントロールすることで脳心血管疾患の発症リスクが著明に低くなります(降圧目標値に達さなくても、治療により血圧値の低下した分だけリスクは低くなります)。

    高血圧症の治療は、生活療法が基本となります。(図5)に示すような生活習慣の修正が必要であり、また修正した生活習慣を長期間維持することも重要です。日本人は食塩摂取量が多い民族であり現在も平均すると1日に約11gの食塩を摂取していますが、高血圧症では1日6g以下の食塩摂取が目標であり目標達成のためには大幅な食生活の修正が必要です。様々な媒体で減塩食のレシピが紹介されており、これらのレシピを用いることも減塩の一助になります。その他にも近年本邦の食習慣は欧米型になっており、脂質やカロリーの摂取が増えています。これらの食習慣も是正が必要になります。軽度の高血圧症であれば生活習慣の修正だけでも降圧目標を達成できることがあります。生活習慣修正のみで降圧目標値を達成できない場合は降圧薬を用いて治療を行います。通常は合併症のおこるリスクの高さに応じて1~3ヵ月程度生活習慣の修正による効果を評価しますが、脳心血管疾患のリスクが高い場合には生活習慣の修正を行うのと同時に降圧薬での血圧コントロールを開始します。なお、生活習慣が修正されないと降圧薬の効果は減弱するため、降圧薬を用いても血圧のコントロールは難しくなります。

    現在本邦で使用されている降圧薬は、①カルシウム拮抗薬、②アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬、③アンジオテンシン変換酵素阻害薬、④利尿薬、⑤ベータ遮断薬、⑥α遮断薬、⑦選択的アルドステロン拮抗薬、⑧直接的レニン阻害薬、⑨交感神経抑制薬、⑩古典的血管拡張薬の10種類であり、②と④の合剤も使用されています。これら10種類の降圧薬のうち第1選択薬とされているのが①から⑤までの5種類であり、通常は病態に合わせてこれら5種類の降圧薬のいずれかが最初に使用されます。1種類の降圧薬で降圧目標が達成出来ない場合は2種類、3種類と降圧薬を併用して治療を行います。腎臓病や糖尿病を合併している高血圧症の場合は、3種類から4種類の降圧薬を使用しないと降圧目標を達成できないこともあります。
    血圧で気になることがありましたら、お気軽に循環器内科を受診して頂きご相談下さい。


    降圧目標(図4)

    診察室血圧 家庭血圧
    若年者
    中年者
    130/85mmHg未満 125/80mmHg未満
    高齢者 140/90mmHg未満 135/85mmHg未満
    糖尿病患者
    CKD患者
    心筋梗塞後患者
    130/80mmHg未満 125/75mmHg未満
    脳血管障害患者 140/90mmHg未満 135/85mmHg未満

     生活習慣の修正項目

    1.減塩  6g/日未満
    2.食塩以外の栄養素 野菜・果物の積極的摂取* コレステロールや飽和脂肪酸の摂取を控える魚(魚油)の積極的摂取
    3.減量 BMI(体重(kg)÷身長(m)2) が25未満
    4. 運動 心血管病のない高血圧患者が対象で、中等度の強度の有酸素運動を中心に定期的に(毎日30分以上を目標に)行う
    5. 節酒 エタノールで男性20-30mL/日以下、 女性10-20mL/日以下
    6. 禁煙
    生活習慣の複合的な修正はより効果的である

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