シリーズ病気 No.91 新型インフルエンザ
小児科(部長) 片岡 知)
毎年冬に流行する季節性のインフルエンザは、日本では1,000万人前後の人がこれにかかり、そのうち死亡者は数千人におよびます。致死率は2,000人に1人(0.05%)ぐらいと言われています。一方、新型インフルエンザは、感染者が2009年の11月末で1,000万人、12月中旬には1,500万人を超え、12月初めには新型インフルエンザによる死亡者数が疑い例を含めて100人を超える様になりました。これを単純に計算すると、致死率は10万人に1人(0.001%)以下ということになります。わが国で最初に騒ぎになった頃に発表された数字(0.5%~0.05%)より、かなり低いものになっています。
<重症化の徴候>
新型インフルエンザの症状は、突然の発熱・咳・のどの痛み・倦怠感などです。
多くの方は、かかっても数日間で軽症のまま回復しています。カゼ程度のことも多く、ほとんど無症状の人もいると言われています。ただし、まれに重症化することがあります。
季節性インフルエンザでもみられるインフルエンザ脳症の他、ウイルス性肺炎が多いのが新型インフルエンザの特徴です。ウイルスそのものが肺の中で増殖して急性の肺炎を引き起こします。
糖尿病・ぜん息などの持病がある方や、妊婦・乳幼児・高齢者は重症化する可能性が高くなります。
小児では、以下のような症状が、重症化の徴候と言われています。
- 症状改善後の再発熱や咳の悪化
- 激しい持続性の嘔吐
- 呼吸が速い・息苦しそうにしている
- 顔色が悪い(土気色、青白いなど)
- 水分がまったくとれない
- 反応が鈍い・呼びかけに答えない
- 意味不明の言動が持続する。または繰り返す
この重症化のために、新聞などでは連日「新型インフルエンザ猛威」・「死者○○人」の活字が躍り、不安が募りました。
新型インフルエンザで重要なことは、
- 致死率は低くても、感染力が強い。
- このウイルスに対して多くの人が免疫を持っていないため、感染者の数が多くなる。
- 感染者の数が多くなる分、重傷者や死亡者数も多くなる可能性がある。
ということです。
<検査の信頼性>
「子供が熱を出したので、検査をしてインフルエンザかどうか調べてほしい。」と良くいわれます。医者のみたてより検査の方が信頼されている風潮がうかがえます。
インフルエンザの迅速抗原検査はしばしば行われますが、これは100%正確なものではありません。検査キットの種類や検査のタイミングにもよりますが、本当にインフルエンザの人が陽性になるのは、条件が良くても80%前後です。検査が陰性でもインフルエンザを否定できません。また、逆に陽性に出ても、インフルエンザではない事もまれにあります。
この時期に発熱患者をみた場合、問診(感染者との濃厚な接触の有無や潜伏期間)・症状・診察所見・迅速抗原検査を含む検査所見などを総合的に判断して、インフルエンザかどうかを診断します。
<タミフルは恐くない?>
主な治療薬はタミフルやリレンザです。昨シーズンまでは異常行動などの副作用を恐れ、使用を迷っていた人も多かったのですが、今シーズンは新型インフルエンザと診断されると、迷わず「タミフルを下さい」と言われる様になりました。
実際、今シーズンほどタミフルやリレンザを処方された年はないと思います。しかし重大な副作用に関する報告は、今までのところ見られていません。
<発熱があってもあわてないで>
「熱に気がついたので、すぐに連れてきました。」というのは夜間の救急診療でよくあることです。とにかく早く診断・治療されたいのでしょうが、発症後24-48時間以内にインフルエンザと診断され、抗インフルエンザウイルス薬を投与されれば薬は有効で、発熱などの症状を軽減してくれます。これで充分に素早い対応であったといえるのです。しかも発熱直後はインフルエンザの迅速抗原検査は陽性になり難いので、重症化の徴候がなければ、検査のためにわざわざ夜中に救急外来を受診する必要はありません。ある程度(半日~1日)経過をみるということは、インフルエンザの検査をする事以上に、診断価値があることかも知れません。医療現場の混乱を避けるためにも、午前の一般外来を受診してもらえれば良いでしょう。
<ワクチンについて>
日本製の新型インフルエンザワクチンの作り方は、季節性のものと変わりません。効果や副作用も従来のものと同等と考えられます。季節性のワクチンの有効率はここ数年、成人で50%前後、小児では20-30%程度です。新型インフルエンザワクチンは流行を予測して作るのではなく、今流行しているものに対して作られたワクチンなので、その分効果は期待できるかもしれません。しかし、ワクチンを接種しても、確実に発症を予防できるわけではありません。
新型インフルエンザワクチンを接種すれば重症化が防げるかどうかは、これから明らかになるのであって、現時点では不明です。厚生労働省は、「インフルエンザ脳症の発症者を減らしたり、ウイルス性肺炎を抑えたりする効果を期待できる。」としています。今後の研究・調査の結果が待たれます。
一般にワクチンは10万~100万回の接種で、アナフィラキシーショックなどの重篤な副作用を起こすと言われています。新型インフルエンザは、日本では致死率の低い病気なので、そのためのワクチンによる副作用も極めて少なくなければいけません。
多くの人が新型インフルエンザワクチンを接種することで、少しでもインフルエンザの拡大を防ぎ、感染者が減り、重症者や死亡者の減少につながれば良いと思います。
