シリーズ病気 No.94 心房細動と脳梗塞
循環器内科(副院長) 金政 健
- 心臓の基礎知識
心臓は、握りこぶしよりやや大きい形をしています。心臓には、右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋があります。これらの4つの部屋が、協調してポンプの働きをもち、体全体に血液(酸素)を送っています。心臓が効率良く全身に血液を送り出すためには、心臓の各部分の心筋が一定の順序で規則正しく収縮する必要があります。このポンプ機能を支えるのが心臓内の電気回路(刺激伝導系)です。心臓は、絶えず働き続け、1日に9万から10万回ほど収縮・拡張を繰り返します。
- 心房細動
心臓細動は、高齢者に多く見られる不整脈です。我が国の疫学的調査として全国から対象を抽出した検討および循環器学会疫学調査では、欧米同様に心房細動の有病率は60歳までは緩やかに1%程度に増大し、それ以降の増大は欧米に比べると軽度です。80歳以上でも人口の3%程度を占めるに過ぎません。わが国では有病率は明らかに男性に多いことがわかっています。わが国における心房細動の基礎疾患は、高血圧が30%、虚血性心疾患が10%、弁膜症が20%程度です。わが国では、心房細動のみの孤立性が3分の1~4分の1にみられます。心房細動発症の危険因子としては、加齢、糖尿病、高血圧、虚血性心疾患、弁膜症、心不全などがあげられます。心房細動は、洞結節の正常ペースメーカーからの信号では心房の興奮が始まらず、心房内(主として左心房にある肺静脈付近)で1分間に350から600回の不規則な電気信号が発生し、心房全体が小刻みに震え、心房の正しい収縮や拡張ができなくなる不整脈です。心電図上では、f波と呼ばれる小さな波の後、QRS波が不規則にきます。心房細動では、統率のない早い不規則な心房興奮のため心室充満に対する心房収縮の寄与は消失し、心拍出量は減少します。この心拍出量の減少は、血行動態を悪化させ、心不全の増悪因子となります。心房細動では、心房内の血流速度は低下し、血栓形成の原因となります。この血栓形成は、最大の合併症である脳梗塞の原因となります。
- 脳梗塞
脳にはたくさんの血管があります。脳の動脈が動脈硬化の進行により狭窄(狭くなること)したり、閉塞(詰まること)したりすると、脳の動脈末梢まで血液が十分に流れなくなってしまいます。血液が十分に流れなくなると、脳の細胞が死んでしまいます。これが脳梗塞です。 梗塞になった部位により症状が異なりますが、一般に手足の麻痺、言語障害、顔面の麻痺、吐き気、嘔吐などが現れます。
- 心房細動の治療法
心臓細動そのものが、直接生命に関わることは多くないのですが、心房細動による二次的な症状(心臓血栓による塞栓性合併症)が非常に重大で生命が危険になる場合があります。心臓内に形成された血栓が心臓の壁からはがれて脳動脈に詰まることが塞栓性脳梗塞です。心房細動は、放置しておくと、生命の予後が悪くなる不整脈です。心房細動の発作を止める方法はいくつかあります。薬剤を使用して自然に発作が止まるのを待つ方法がひとつです。発作時間が短ければこの方法で停止する可能性が高くなります。次に、電気ショック(DCショック、直流通電)を行う方法があります。全身麻酔を行い、電気ショックをかけて停止させます。発作時間が長くても非常に迅速で効果が高いものです。また、カテーテルアブレーションという心臓内のカテーテル手術により心房細動自体を停止することがわかってきました。適応があればこの方法も良いと考えられます。
- 抗血栓療法
心房細動での心房内血栓形成による合併症の予防のために抗血栓療法が行われます。 脳梗塞のリスクの高い人には、ワルファリンによる抗血栓療法が原則です。日本では、その管理の煩わしさと出血性の副作用を恐れるあまり、ワルファリンによる抗血栓療法を手がけない医師が多いのが現状です。ワルファリンによる血栓塞栓予防効果が他の薬剤よりはるかに優れていることは、多くの臨床試験で確認されています。血栓塞栓の危険性の高い心房細動の患者さんには、禁忌でないかぎりワルファリン療法を行うことが薦められます。
- まとめ
心房細動は、心臓弁膜症、高血圧や加齢などにより発生します。心房細動の最大の合併症は、心房内に形成された血栓が脳動脈に塞栓して起こる脳梗塞です。このため、心房細動の合併症の予防には抗血栓療法が重要です。心房細動の患者さんは、循環器内科を受診されて治療法についてご相談ください。
