シニアレジデント 岸田 大 先生
出身:大阪府堺市
出身大学:大阪市立大学
卒業年度:2004年
大阪府済生会富田林病院(以下済生会富田林病院)は済生会が運営管理を行っている病院である一方で、富田林市が開設した病院でもあります。富田林市を中心に1市3町村で構成される大阪府南河内医療圏の約70万人の健康を支える唯一の公的病院です。現在は14診療科、300床を有しています。健診センターや透析センターも完備し、病診連携も積極的に進めています。
臨床研修に関しては、21世紀の新しい医療に対する要請に応えられるよう、全ての臨床医に求められる基本的臨床能力や態度を養い、プライマリーケア、救急医療に対処できる臨床医を育成する目的でプログラムを構築しています。また、後期(専門医)研修は、豊富な症例のもとで、プライマリーケアを初期研修の段階からさらに深化させながら、専門研修を進めていくことが特徴です。
今回ご紹介する岸田大先生は大阪市立大学医学部附属病院、済生会富田林病院で初期研修を行い、済生会富田林病院で皮膚科医として後期研修を行っています。
また今回は臨床研修医管理室長である窪田剛内科部長にもお話を伺ってきました。
◆ 大阪大学文学部をご卒業されたそうですね。
高校時代はアメリカに留学していたこともあって、理系科目が苦手だったんですよ。それで家から通えて、2次試験に数学のないところという理由で文学部に行ったんです(笑)。文学部で文化人類学を専攻し、ゼミで「祭り」の研究をしました。ゼミで岐阜県の高山へフィールドワークに行ったのですが、「シャーマン」の存在に惹かれるものがあったんです。シャーマンの源は「メディスンマン」なんですよ。ムラ社会の中で薬を作るだけではなく、心のケアをしていた存在だったんですね。しかし現代にもシャーマンがいる理由は、医療と心のケアが分かれてしまい、心のケアへのニーズとしてシャーマンを求めるのではないかと考えたのです。終末期医療や代替医療など、心のケアに関わる領域も出てきま中で研究者としてそういう医療人類学を学ぶよりも医療の構造的な問題をはっきりさせたいと思うようになりました。
◆ それで医学部へ進学されたんですね。
その頃、祖父が肝臓がんで亡くなったこともきっかけになりました。今となっては仕方ないと思える面もありますが、当時、家族の一人として何もできなかったのが残念でしたね。祖父は何を望んでいたんだろうかと考えさせられました。
◆初期研修はどちらでなさったのですか?
1年目は大阪市立大学の附属病院で行いました。私たちはスーパーローテート1期生なので、情報がなかったんです。大学だったら間違いないかなと思って選びました(笑)。2年目は済生会富田林病院で研修しました。
◆2年目に済生会富田林病院を選んだのはどうしてですか?
皮膚科や形成外科に興味があって、当時、大阪市大の協力型の病院の中でその両方を診ることができそうだという理由からです。
◆初期研修を振り返って、いかがですか?
いろんな科を回ることができたのは良かったです。後期研修に入ってしまうと「他科のことは知らない、専門でないし、手を出すべきでない」と考えがちなのですが、それでも初期研修で学んだことを生かせれば、患者さんを取り巻く環境を含めた全体像を見やすくなりました。また他科へのコンサルトのタイミングを図ることや想像力を持てるようになったのも初期研修での経験があるからかなと思います。
皮膚科は大学時代、講義を聞いていて、掴みどころがなく、分かりにくい科目でした(笑)。しかし皮膚の表面は自分で見ることができるゆえに、QOLに大きく関わるものだと思うんです。皮膚は外界と自分との境界線であり、「人間って何ぞや」という問いを自分なりに理解したいと考え、初期研修2年目に済生会富田林病院に来たときに皮膚科を専攻しようと決めました。皮膚科で行う小さな手術も好きですし、面白い科ですよ。
◆後期研修を済生会富田林病院に決められたのはどうしてですか?
初期研修でローテートしたときに、中川部長が経験豊富な方で魅力的だったんですね。そして手術の症例数が多いことにも惹かれました。中川部長もいらして間もない時期で、「皮膚科として新しいことをしていこう」という感じで、何かを立ち上げていくときの面白さがありました。
◆どんなことが充実していますか?
やはり手術症例の多さでしょうか。それはイメージ通りでしたね。入院数も多いですし、毎日忙しいです。手術症例としては悪性腫瘍が多いです。他は良性腫瘍、熱傷、褥創などです。紹介患者さんの数も多くなってきて、週2日の手術日では足りない週もあります。
◆不満なことはありますか?
人員が部長、副医長、私ですので、もう少しメンバーがいればなとは思いますね。基礎的な皮膚科疾患はほぼ経験できるとは思いますが、中川部長は手術がお好きですので、症例に偏りが出ているかもしれません。大学病院でしたら、色々な得意分野をお持ちの先生方が揃うので、そういった面はないかもしれません。
◆中川部長はどんな指導医でいらっしゃいますか?
日本皮膚科学会の代議員であり、日本皮膚外科学会の副会長でいらっしゃいます。最近、皮膚悪性腫瘍指導医を取得されました。この指導医をお持ちの先生は大阪でも2、3人しかいらっしゃらないそうです。明るく、優しい方で本当に可愛がって頂いています。私が行き詰ってしまったときに、違う視点からアドバイスをくださるので、「さすがだなあ」と思っています。
◆失敗談をお聞かせください。
植皮手術のときに、取った皮膚を捨てそうになってしまったことがあります。寸でのところで気づきましたが、さすがに怒られました。週1日ほど外来も担当しているのですが、そのときに診断ミスをしてしまい、同じ患者さんを他の日に担当された先生に注意を受けたこともありましたね。外来ではレセプトも難しいです。入院だとDPCなので入力ソフトがありますが、外来の場合はきちんと病名をつけないといけないので、苦労しています。保険のシステムにも早く慣れなければと思っています。
◆カンファレンスはどんな雰囲気なんですか?
科の規模が小さいですので、特別にカンファレンスの時間はありません。ただ昼食を3人でできるだけ一緒に取るようにしています。そこで入院患者さんの報告をしたり、興味深い症例についてはカルテを持ってきて、プレゼンをしたりするいい時間になっていますよ。中川部長が資料を持ってきて、調べるようにと言ってくださることもあります。水曜日の午後が部長回診ですが、距離が近く、機動力の高いところで研修できていると思います。
◆当直のシステムについて、教えてください。
シニア1年目のときは内科当直に入ることもあったのですが、今は外科当直に入っています。内科当直の先生と2人での当直です。回数は月に3回程度ですね。日頃、皮膚科疾患をメインで診ているので、「危ない」というセンスが鈍くなることが怖いです。当直は今でも緊張しますし、正直なところ怖さもあります。
◆ジュニアレジデントへの指導で気を付けていることはどんなことでしょうか?
大学では軟膏や処置の仕方について具体的に教わらないので、ジュニアレジデントは包帯の巻き方一つできないんです。そこで「どうして、この処置なのか」といった根拠をその場でできるだけ伝えるようにしています。それから、どの科であっても「内科的な評価」は必要ですので、レントゲンや心電図の見方、採血データのチェックなどを一緒にやっています。
◆コメディカルの方とのコミュニケーションはいかがですか?
どんなことでも協力的ですが、私の指示にベースとなる根拠がなく、ヘタなことをしてしまうと「突っ込み」が入ります(笑)。自分が評価対象になっている緊張感が常にありますね。コメディカルスタッフからの専門的な提案を伺うと、各自が主体性を持って、治療を作っていくといった雰囲気を感じます。私も自分の知識や経験に固執せず、そういった提案を柔軟に聞ける姿勢を持つよう意識しています。
◆今後のご予定をお聞かせください。
まずは専門医の取得を目指します。手術は引き続き修行したいですね。サブスペシャリティとして血管病変に興味があります。血管の閉塞が原因の疾患は皮膚科領域ではじり貧になってしまい、ブレークスルーできないことがあるんです。そこで血管の移植などを学び、皮膚科に取り入れていければという希望があるんですが・・・。
◆現在の臨床研修制度について、感想をお願いします。
選択肢が広がったことは良かったと思います。ジュニア1年目のときに血液内科を回ったのですが、指導医の先生方が非常に熱心でした。「内科的な評価」について、薬を使ってのコントロールの大きさや血液データの繊細な見方などを教わったことはたいへん勉強になりました。
◆初期研修の病院を選ぶ際のアドバイスをお願いします。
症例数は指導医の先生方に左右されるところがあります。医師の人事は変動しやすいので、症例数も人事異動で変化しがちであり、あくまで参考ではないでしょうか。しかし人間関係はやはり大事ですね。ピンとくる先生がいれば幸せです。それから、この仕事は家族の協力も必要です。家族の負担がかからず、自分の生活スタイルに合った場所にある病院というのも意外に選択基準の重要な要素だと思います。
◆後期研修はいかがでしょうか。
あまりに頼ってばかりだといけませんが、最終的に「俺に任せてくれ」と言ってくださるような信頼できる指導医の先生がいらっしゃる病院で後期研修を行うのが一番成長できると思っています。中小規模の病院の良さの一つとして研修医の意見でも合理性があれば取り入れてもらえて、治療に反映させていきやすい点にあります。毎日新しいことができますので、アイディア次第の治療で患者さんが良くなるのを見るのは嬉しいですよ。データとしての症例数はありますが、データには出てこない良さのある病院もいいのではないでしょうか。
◆プライベートの過ごし方を教えてください。
熱帯魚が好きで、毎日世話をしています。間もなく2歳になる子どもがいまして、家族で温泉に行くこともあります。最近では三朝温泉に行きました。島根県の温泉が好きだったのですが、石見銀山が世界遺産に指定されてからお客さんが増えてきたのが残念です(笑)。
◆タイムスケジュール(皮膚科:手術日の場合)
| 07:00 | 起床 |
| 08:30 | 出勤、外来、病棟勤務 |
| 13:00 | 昼食 |
| 14:00 | 外来手術、手術室での手術、処置 |
| 17:00 | カルテ、サマリー記入 |
| 19:00 | 病院を出る |
| 19:30 | 帰宅、子どもの世話、熱帯魚の世話、勉強 |
| 24:00 | 就寝 |
臨床研修医管理室長 窪田剛 内科部長
1988年に大阪大学を卒業後、大阪大学医学部附属病院第三内科に入局する。1989年から大阪大学医学部附属病院麻酔科に移り、研修終了となる。1991年に大阪府済生会富田林病院に医員として勤務する。1994年から大阪大学医学部分子病態内科の血液研究室で研究生となる。2000年に大阪府済生会富田林病院に医員として着任し、2002年に内科副部長を経て、2007年に内科部長、臨床研修医管理室長に就任する。
●窪田先生は新しい臨床研修制度にどのように関わられるようになったのですか?
今の臨床研修制度が始まったのは4年前ですが、ちょうど私も40歳を超えて、自分ができることを若い医師たちに伝えていかなくてはいけないと思うようになり、指導医をやっていくことに意義を見出しました。2007年に臨床研修医管理室長になったのは巡り合わせですね。それまで若い人の面倒見がよかったからでしょう(笑)。
●済生会富田林病院の特徴をお聞かせください。
大きい病院のように専門が細かく分かれていないことが特徴です。例えば内科では一人の医師が主治医となる総合診療科のスタンスを取っています。循環器専門の医師が胆石を診ることもありますよ。患者さんから「私の主治医は誰?」と尋ねられないように、主治医としての立場を重視して診療に当たっています。したがって、本当の意味での総合診療を身につけるには5年かかりますね。
●5年というのはどうしてですか?
何ができて、何ができないのかが分かるのに2年かかります。そして専門科の内容も修得しつつ計5年くらいは必要です。そこから専門の勉強を始めてもけっして遅くはありません。私も血液専門ですが、感染症や膠原病、糖尿病などの生活習慣病のコントロールなどにも首を突っ込んでいます。おそらく認知症を語らせたら日本一の血液内科医だと自負しています(笑)。
●窪田先生は麻酔科の標榜医でもいらっしゃいますよね。
2年目に外の病院に出るのが不安で、修羅場に慣れておきたいと麻酔科に行ったんです。いい経験ができたと思っていますよ。
●指導医として、心がけていらっしゃることについて、お話しください。
研修医には「自分が診てもらいたい医師を目指せ」と言っています。疾患ばかり診るのではなく、患者さん全体に対してどんなアプローチがいるのか、自分の中で像を組み立ててもらいたいですね。そのためには一歩引いたところから見て、考える姿勢を持つことが必要です。
●ご専門の血液内科はいかがですか?
「一人血液内科」の体制ですので、大きなことはできません。白血病であれば、導入から地固めまでの範囲になります。その後の骨髄移植やあるいはがんのワクチン療法となりますと、他院へ紹介します。骨髄移植や成人臍帯血は大阪南医療センターや市立泉佐野病院にお願いしていますし、先端医療的な移植となればでしたら兵庫医科大学ですね。
病病連携が充実しているんですね。
連携先の病院とは研究会も開催しています。血液内科に興味のある研修医がいれば、そういった場に誘っていますよ。最初はちんぷんかんぷんみたいですが(笑)。2年前には血液内科を専攻したいという研修医がおり、いい橋渡しができましたね。
シニアレジデントの研修について、どのようにお考えですか?
プライマリーケアは大事だと理解しつつも、初期研修の2年で分かったような気になって納得してしまっている人もいます。総合診療は付け焼刃的な感覚ではなく、基礎をしっかりやらなくてはいけません。そうすることで専門の勉強も進みます。専門医に先走ってしまうと戻るのは難しいので、プライマリーケアをたたき込みたい方に来て頂きたいですね。専門を学びつつ、視野を広げていけるように様々な指導医がサポートします。
済生会富田林病院は救急も多いですね。
日中は救急車も多いですね。ただ総合診療は救急車で来院する患者さんのためだけのものではありません。地域の開業医さんからの紹介患者さんもいます。現在、救急崩壊などと言われていますが、そういう時代だからこそ総合診療ができることが医師個人にとっての武器になると思っています。
現在の臨床研修制度について、ご感想をお願いします。
2年は長いと思いますので、基本的には反対ですね。小児科や産婦人科の必要性は疑問です。本当に必要ならば1か月ずつではなく、3か月ずつ組むべきでしょう。また地域医療や精神科も向き不向きがありますしね。最初の1年で内科、外科、麻酔科、救急をやって、そこから自分の進むべき道を探って、学んでいく方がいいのではないでしょうか。
1日のタイムスケジュールを教えてください。
9時前に出勤し、まずは書類の整理です。9時半頃に病棟に行き、病棟での処置を行います。午後からは病棟での処置に加えて、研修医への指示や指導です。週1回、症例検討会を開き、研修医がプレゼンします。他の研修医が担当している患者さんのことを学べるいい機会になっています。また紹介があれば、外科との合同カンファレンスも不定期に開かれます。
プライベートでのご趣味について、お聞かせください。
家族を豊中市においての単身赴任ですので、もっぱら「飲み食い」が趣味です。敢えて言うなら最近はワインですかね。研修医と飲むこともありますよ。
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